医療行為を介護職員が実施することは、原則的に医師法等により認められていません。
しかしながら、「たん吸引」や「経管栄養」といった医療行為は、喀痰(かくたん)吸引等研修を修了し「認定特定行為業務従事証」が交付されれば、一定の条件下で実施できます。
ここでは、介護職員が「たん吸引」や「経管栄養」ができるようになる喀痰吸引等研修について解説します。
喀痰吸引等研修とは、どんな研修?
平成24年4月から「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正により、一定の条件の下での医療的ケア(喀痰吸引等)の実施が可能となりました。
喀痰吸引等研修は、適切に喀痰吸引等を行うことができる介護職員を養成することを目的として始まった研修です。
研修修了後に実施可能な行為
たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)
※生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われる、医療や看護との連携による安全確保が図られているなど、一定の条件の下で行うことができます。
喀痰吸引等研修の種類
喀痰吸引等研修には、第1号研修、第2号研修、第3号研修があります。
種類ごとに、実施可能な行為の範囲や行為ができる対象利用者が異なります。
第1号研修(不特定多数の方に実地)
複数の利用者に対して、以下の実地研修対象の全5行為すべてを行うための研修
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
第2号研修(不特定多数の方に実地)
複数の利用者に対して、以下の実地研修対象から、いずれか必要な行為を行うための研修
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
※第2号研修は実地研修対象の全5行為のうち1〜4つまで選択可能
研修カリキュラム(第1号研修、第2号研修)
喀痰吸引等研修は、医療行為に必要な知識を習得する「基本研修」と、安全に医療行為を行うための技術を習得する「実地研修」から構成されています。
基本研修
第1号研修、第2号研修の基本研修は同じカリキュラムです。
講義(50時間)
科目 | 時間数 |
---|---|
1.人間と社会 | 1.5時間 |
2.保健医療制度とチーム医療 | 2時間 |
3.安全な療養生活 | 4時間 |
4.清潔保持と感染予防 | 2.5時間 |
5.健康状態の把握 | 3時間 |
6.高齢者及び障害時・者の喀痰吸引概論 | 11時間 |
7.高齢者及び障害時・者の喀痰吸引実施手順開設 | 8時間 |
8.高齢者及び障害時・者の経管栄養概論 | 10時間 |
9.高齢者及び障害時・者の経管栄養実施手順開設 | 8時間 |
合計 | 50時間 |
評価(筆記試験) | 1時間 |
講義終了後に筆記試験があります。
演習
シュミレーター(人形)を使って各行為を演習します。
行為 | 回数 | |
---|---|---|
1.喀痰吸引 | 口腔内 | 5回以上 |
2. | 鼻腔内 | 5回以上 |
3. | 気管カニューレ内部 | 5回以上 |
4.経管栄養 | 胃ろう、又は腸ろう | 5回以上 |
5. | 経鼻経管栄養 | 5回以上 |
6.救急蘇生法 | 1回以上 |
実地研修
実地研修は、指導看護師等のもと、利用者様の施設等(居宅)で、対象となる利用者様にとって必要な行為を所定の回数以上行なうものです。
基本研修の評価(筆記試験)に合格した方のみが受講できます。
第1号研修ではすべての行為を、第2号研修では次のいずれか必要な行為を選択して受講します。
行為 | 回数 | |
---|---|---|
1.喀痰吸引 | 口腔内 | 10回以上 |
2. | 鼻腔内 | 20回以上 |
3. | 気管カニューレ内部 | 20回以上 |
4.経管栄養 | 胃ろう、又は腸ろう | 20回以上 |
5. | 経鼻経管栄養 | 20回以上 |
指導看護師が3段階で評価を行い、評価表のすべての項目について、2回連続『手順通りに実施できる』と評価されるまで繰り返し実地研修を行います。
受講対象者
受講資格は各登録研修期間ごとに若干異なりますが、以下の条件がほとんどの研修機関で必須になっています。
- 介護保険施設・障害児(者)施設に勤務している介護職員であること。
- 研修の全課程を、確実に受講できること。
- 所属施設・事業所内に、たん吸引等が必要な利用者がいること。(居宅系サービスの場合は、連携する訪問介護事業所にたん吸引等が必要な利用者がいること。)
- 指導看護師研修修了者(平成23・24年度)又はそれに準じた知識や技術を有する臨床等での実務経験3年以上の正看護師がいる等、当該施設等(原則として受講者が所属する施設・事業所または利用者宅)において実施研修を行うことができること。
- 介護福祉士資格保有者、又は介護もしくは障害者支援で3年以上の経験を有する者。
- 実地研修の実施に関して、利用者又はその家族等から同意が得られること。
- 実地研修に関して、かかりつけ医等から了承を受けられること。
第3号研修(特定の方に対して実地)
特定の方に対して必要な医療的ケア(喀痰吸引等)を行うための研修
研修カリキュラム
基本研修
- 講義 8時間
- 演習 1時間(シュミレーター演習)
- 評価(筆記試験) 30分
科目 |
---|
1.重度障害児・者等の地域生活等に関する講義 |
2.健康状態の把握・経管栄養の講義 |
3.喀痰吸引に関する講義 |
4.緊急時の対応及び危険防止に関する講義 |
5.シュミレーター演習 |
6.評価(筆記試験) |
実地研修
特定の方に対する、いずれか必要な行為のみを選択して受講します。
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
特定の方とは、利用者と介護職員等とのコミュニケーションなど個別的な関係性が重視されるケー スに対応するもので、筋萎縮性側索硬化症又はこれに類似する神経・筋疾患、筋ジストロフィ ー、高位頸髄損傷、遷延性意識障害、重症心身障害等を患っている療養患者の方や障害のある方。
喀痰吸引等研修の費用・期間
講座 | 受講費用目安 | 受講期間目安 | ||
---|---|---|---|---|
基本研修+実地研修 | 実地研修のみ | 基本研修(講義) | 基本研修(演習) | |
第1号研修 | 100,000円〜200,000円 | 20,000円〜80,000円 | 7〜8日 | 1〜2日 |
第2号研修 | 40,000円〜200,000円 | 20,000円〜80,000円 | 7〜8日 | 1〜2日 |
第3号研修 | 40,000円〜60,000円 | 20,000円〜80,000円 | 1〜2日 | 1日 |
- 実地研修は5か月の間に規定された実施回数を行います。
医療的ケア(喀痰吸引等研修)の講座費用を比較するには介護・福祉・医療の資格情報サイト『シカトル』が便利です。無料で資料請求ができます。
介護資格保有者が医療的ケア(たんの吸引等)を行うためには?
介護福祉士がたんの吸引等をできるようになるには?
介護福祉士の資格を取得している場合でも、医療的ケア(たんの吸引等)を行うためには喀痰吸引等研修が必須となります。
2016年以前(第28回試験)に介護福祉士国家資格を取得した方
登録研修機関で、基本研修(講義と演習)と実地研修を受講する必要があります。
2017年以降(第29回試験)に介護福祉士国家資格を取得した方
所属している施設・事業所(登録喀痰吸引等事業者に限る)において、実地研修を受講する必要があります。基本研修(講義と演習)は履修免除となります。
実務者研修修了者がたんの吸引等をできるようになるには?
介護福祉士実務者研修を修了しただけでは、医療的ケア(たんの吸引等)は実施できません。基本研修(講義と演習)が修了しているだけです。
喀痰吸引等研修の基本研修は、実務者研修のカリキュラムにおける「医療的ケア」と同じ内容になります。
そのため、実務者研修を修了している場合、喀痰吸引等研修の基本研修(講義と演習)は履修免除されます。
ただし、実務者研修修了で免除されるのは基本研修だけなので、実際に医療的ケア(たんの吸引等)を行うには実務者研修修了後、所属している施設・事業所(登録喀痰吸引等事業者に限る)において、実地研修を受講する必要があります。
他事業所での実地研修について
実地研修は、就業先(自施設)で行うことが原則ですが、看護師配置がない事業所は、他事業所での実地研修も可能です。
その場合は、就業先である登録喀痰吸引等事業者に研修の責任があります。
介護職員がたんの吸引等をできるようになるには?
介護職員(無資格、ヘルパー2級、介護職員初任者研修修了者など)
介護職員が介護福祉士を目指す場合
実務者研修を修了後、実地研修を受講する必要があります。
介護福祉士を目指さない場合
登録研修機関で、基本研修(講義と演習)と実地研修を受講する必要があります。
全国の実務者研修の実施施設一覧はこちら
「実地研修を修了した喀痰吸引等行為」の登録申請
介護福祉士で実地研修を修了した方は、「実地研修を修了した喀痰吸引等行為」の登録申請を行いましょう。下記のページで申請ができます。
平成28年4月1日から、介護福祉士の方は「実地研修を修了した喀痰吸引等行為」の登録申請ができるようになりました。
申請を受け付けた喀痰吸引等行為は、登録証に記載されます。
なお、この登録申請は任意です(義務ではありません)。
また、既に認定特定行為業務従事者として喀痰吸引等の行為を行っている方々は、この申請を行わなくても引き続き認定特定行為業務従事者として喀痰吸引等の行為が可能です。引用元:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター
実地研修を修了した喀痰吸引等行為」の登録申請について